誰かもっと詳しい人が書くだろうと思ってずっと待ってたのだけれど、誰も書かないので、つたないまでも自分が書いてしまうことにする。
まあ、どのくらいの数の論壇オタがそういう彼女をゲットできるかは別にして、
「オタではまったくないんだが、しかし自分のオタ趣味を肯定的に黙認してくれて、
その上で全く知らない論壇の世界とはなんなのか、ちょっとだけ好奇心持ってる」
ような、ヲタの都合のいい妄想の中に出てきそうな彼女に、論壇のことを紹介するために
読ませるべき10本を選んでみたいのだけれど。
(要はhttp://media.excite.co.jp/daily/thursday/031009/の正反対版だな。彼女に論壇を布教するのではなく 相互のコミュニケーションの入口として)
あくまで「入口」なので、時間的に過大な負担を伴うハードカバーは避けたい。(*1)
できれば新書、長くても選書程度にとどめたい。
あと、いくら論壇的に基礎といっても古びを感じすぎるものは避けたい。
戦後民主主義好きが『現代政治の思想と行動』は外せないと言っても、それはちょっとさすがになあ、と思う。
そういう感じ。
彼女の設定は
論壇知識はいわゆるコメンテーター的なものを除けば、東京新聞の特報欄程度は見ている
社会派度も低いが、頭はけっこう良い
という条件で。
まずは俺的に。出した順番は実質的には意味がない。
まあ、いきなりここかよとも思うけれど、「動ポモ以前」を濃縮しきっていて、「動ポモ以後」を決定づけたという点では
外せないんだよなあ。長さも講談社現代新書だし。
ただ、ここでオタトーク全開にしてしまうと、彼女との関係が崩れるかも。
この情報過多な作品について、どれだけさらりと、嫌味にならず濃すぎず、それでいて必要最小限の情報を彼女に
伝えられるかということは、オタ側の「真のコミュニケーション能力」の試験としてはいいタスクだろうと思う。
アレって典型的な「オタクが考える非論壇に受け入れられそうな論文集(そうオタクが思い込んでいるだけ。実際は全然受け入れられない)」そのもの
という意見には半分賛成・半分反対なのだけれど、それを彼女にぶつけて確かめてみるには
一番よさそうな素材なんじゃないのかな。
「論壇オタとしてはこの二つは“煽り”としていいと思うんだけど、率直に言ってどう?」って。
ある種のはてな論壇オタが持ってる統計への憧憬と、本田由紀執筆の教育社会学的な考証へのこだわりを
彼女に紹介するという意味ではいいなと思うのと、それに加えていかにもはてなな
「童貞的なださカッコよさ」を体現する後藤和智(*2)
「童貞的に好みな社会学者」を体現する内藤朝雄(*3)
の二人をはじめとして、オタ好きのするキャラを新書にちりばめているのが、紹介してみたい理由。
たぶんこれを見た彼女は「鳥肌実だよね」と言ってくれるかもしれないが、そこが狙いといえば狙い。
この系譜の運動がその後続いていないこと、これがニコニコでは大人気になったこと、
ニコニコならMAD映像になって、それが実際の投票行動に影響を与えてもおかしくはなさそうなのに、
現実の都知事選では供託金ラインにすら達しなかったこと、なんかを非オタ彼女と話してみたいかな、という妄想的願望。(*4)
「やっぱり論壇は国家論のためのものだよね」という話になったときに、そこで選ぶのは「ナショナリズム(姜尚中)」
でもいいのだけれど、そこでこっちを選んだのは、この作品にかける大澤の思いが好きだから。
断腸の思いで削りに削ってそれでも900ページ、っていう尺が、どうしても俺の心をつかんでしまうのは、
その「捨てる」ということへの諦めきれなさがいかにも論壇的だなあと思えてしまうから。
「ナショナリズムの由来」の長さを俺自身は冗長とは思わないし、もう削れないだろうとは思うけれど、一方でこれが
宮台や北田だったらきっちりNHKブックス程度にしてしまうだろうとも思う。
なのに、各所に頭下げて迷惑かけて900ページを作ってしまう、というあたり、どうしても
「自分の物語を形作ってきたものが捨てられないオタク」としては、たとえ大澤がそういうキャラでなかったとしても、
親近感を禁じ得ない。作品自体の高評価と合わせて、そんなことを彼女に話してみたい。(*5)
今の若年層で「おたくの研究」読んだことのある人はそんなにいないと思うのだけれど、だから紹介してみたい。(*6)
宮崎勤よりも前の段階で、新人類の哲学とか嫌オタク流の技法とかはこの作品で頂点に達していたとも言えて、
こういうクオリティの作品がエロ漫画雑誌にこの時代に掲載されていたんだよ、というのは、
別に俺自身がなんらそこに貢献してなくとも、なんとなくおたく論好きとしては不思議に誇らしいし、
いわゆるカタカナの「オタク」でしか宮崎(勤)を知らない彼女には見せてあげたいなと思う。(*7)
宮台の「社会システム論」あるいは「造語づくり」をオタとして教えたい、というお節介焼きから読ませる、ということではなくて。
「終わらない日常を毎日生きる」的な感覚がオタには共通してあるのかなということを感じていて、
だからこそオウム真理教解散は分裂以外ではあり得なかったとも思う。(*8)
「祝祭化した日常を生きる」という鈴木謙介の感覚が今日さらに強まっているとするなら、その「オタクの気分」の
源は宮台真司にあったんじゃないか、という、そんな理屈はかけらも口にせずに、
単純に納得してもらえるかどうかを見てみたい。
これは地雷だよなあ。地雷が火を噴くか否か、そこのスリルを味わってみたいなあ。
こういう格差社会批判風味のルサンチマンをこういうかたちで記事化して、それが非オタに受け入れられるか
気持ち悪さを誘発するか、というのを見てみたい。
9本まではあっさり決まったんだけど10本目は空白でもいいかな、などと思いつつ、便宜的にゼロアカを選んだ。
東から始まって浩紀で終わるのもそれなりに収まりはいいだろうし、ゼロ年代以降の論壇批評の先駆けと
なる企画でもあるし、紹介する価値はあるのだろうけど、もっと他にいい作品がありそうな気もする。
というわけで、俺のこういう意図にそって、もっといい10本目はこんなのどうよ、というのがあったら
教えてください。
「駄目だこれは。俺がちゃんとしたリストを作ってやる」って人は本当によろしくお願いします。知識が生半可すぎます。
最後に誰かに書いてもらいたい10本をリストにしておく。
というか、こういう「10本シリーズ」が一番好きなのって人文系だと思ってたんだけど、案外人文系とかはてサヨとかの食い付きが弱くて意外だった。逆にやりすぎて今更感があるのだろうか。